スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
--------(--)
 

境界な御本についての一方的なひとりごと

『深泥丘奇談』は綾辻行人さんの小説。メディアファクトリーから出ている単行本です。


どろっとした沼があって、風もなく水面は凪いでいます。

たわむれに、折り紙を一枚、水面にのっけてみましょう。
折り紙は沈みもせず、たぶんそのまま水の面に貼りつているでしょう。

折り紙の裏は水にべったり濡れていますが、表は乾いています。
羽虫になってそこに降り立ってみたら、「鮮やかな色の島があるじゃないか」と思うかもしれません。
しかし、折り紙を指で、ほんの少しの力でちょっとだけ押してみますと…あらあら、たちまち水が陸地に侵入してきます。
羽虫が慌ててバタバタしても、体のぐるりは粘性を帯びた水ばかり。振り仰げば、頭上はるかに水面があります。

折り紙を押す指を離してみますと、紙はふわりと浮いて元の位置に戻ります。
気付けば、足は変わらず折り紙の陸地を踏みしめ、頭上には…青い、綺麗な空。
羽虫はぱちぱち瞬きすると、さっき一瞬沈んだのは夢かな、と思うのです。

『深泥沼奇談』にはちょうどそんな印象の短いお話が詰まっています。
怪談ではなく、奇談。
現実世界と、ちょっと危ない別世界との境界を行ったり来たりゆらゆらしている御本なのでした。
羽虫な読者は、ああ空が見える…あら、今は水面が見える…おや?あれ?というゆらゆら感を楽しむことができます。

主人公は作者の綾辻さんの分身かなと思われる、40代半ばの作家の男性です。
よく眩暈に襲われることがあり、ストレス性の体調不良も重なって、近所にある深泥丘病院を訪ねるところからお話は始まります。

ごく普通の病院です。脳外科、消化器科、内科、歯科、…いろんな科があって、かかりつけ医とするには申し分のないほどほどの規模です。
ただ「?」な点も多々あるのでした。見過ごそうと思えば見過ごせる程度のささいな違和感です。
例えば、医療スタッフみなさんそれぞれが、体のどこかを怪我している。怪我した部分は包帯で覆っていたり眼帯をかけていたりするのでした。
主人公は数年にわたってこの病院に通院するわけですが、スタッフたちはその間ずっと包帯が取れたためしがないのです。

主人公の主治医となるのは脳外科の石倉先生、片方の目に鶯色の眼帯をかけています。
名札には石倉(一)とあって、(一)って何だろうと思っていると、次に受診した消化器科の先生がそっくり同じ顔をした石倉さんで、こちらが石倉(二)なのでした。
石倉(二)も同じく眼帯をかけていますが、覆っているのは石倉(一)とは逆の眼で、両者の違いはそこだけです。
双子かなと思いつつ、さらにその後受診した歯科の先生は、またもやそっくり同じ顔をした石倉さんで、
こちらは両目に眼帯はなく、銀縁の眼鏡をかけています。そして名札には石倉(三)。

現実の京都の深泥丘池周辺をそのまま、少しずれた次元に引き込んで奇談作品としてあるようですが、
京都そのものがだいたいに妖しの土地柄です。
ベースがそこなので、鵺に似た奇鳥が出てきたり(夢かもしれない)、五山の送り火が不定期に六山になったり(燃やされる模様を見た人は絶叫して逃げ惑う)、胃カメラを飲んだら胃の中に×××が見えたり(麻酔の見せた幻覚か)、そんな奇怪な創作がやけに現実味を帯びて「もしかしら…」と思わせます。

ただ、そこは折り紙を押す指をいいタイミングでさりげなくはずしてしまうのが作者の手腕の見せどころ。
もしかしたら…と気分が高まったところで、いやいや、そんなことあるわけないでしょう、ほらね、と現実にぐっと揺り戻すことを忘れません。
ゆらゆらゆら。
読者は「いいところまで行ったのに…」とはぐらかされた気分です。そして、さらに強い刺激を求めて次の章へ進んでしまうのでした。

作中に出てくる創作された地名も、如呂塚(にょろづか)、黒鷺川、深蔭川、水魚山、無無山(ないないやま)、保知谷(ぼちだに)、猫目島などなど、妖しの雰囲気をにじませたものがそろっています。
個人的には如呂塚が気に入りました。にょろ、いい響きです。

この御本には続編もあるそうで、こちらもそのうち揃えてみたいなと思っています。

完全に異世界に飛ぶのはちょっと抵抗がある、片足だけ少々水につけてみたい、という方には相性の良い御本であるように思います。
お気になられましたら是非どうぞ。

(このところ更新が間遠で、皆様方のブログにもなかなかお邪魔させていただけず、申し訳ありません)
スポンサーサイト
2011-10-02(Sun)
 

コメントの投稿

非公開コメント

No title 

如呂塚に無無山、じつにささめさんチックな地名ですね。
僕も小説は好きなのですが、いまだに怪奇(ホラー系)は読んだ事が
ありません。
映画でもそうですが鑑賞中の恐怖心はモチロンの事、やっかいなのは
鑑賞後なのです。 自分の想像力にやられてしまうのです。
へタすりゃ我が家の2階にすら行けない事もある程です。

ささめさんは怪奇物を好まれるようですが、そういったアフターは
大丈夫なのでしょうか?
2011-10-02 19:40 | 蛇井 | URL  [ 編集 ]

こんばんは 

京都市○○区如呂塚如呂八八八ー八
(にょろづかにょろ やややのや)
へ行けば、ささめさんに逢えますか?(笑)

水の上の折り紙。
もしかしたら私たちの世界そのものがそんなところに存在するのかもしれません…。
なんて思ったりして。
2011-10-03 19:51 | pispofp | URL  [ 編集 ]

No title 

>>蛇井さん

おお、蛇井さんはてっきり畳の代わりにホラー小説をしきつめて、上にお布団を敷いておやすみになっていらっしゃるお方と思っておりました。
うっかり八兵衛ささめですね、ぺんぺんでございます。

うんうん、アフター時は読んだり見たりしたことを激しく後悔するのが常でございます。ただしささめはアニマルなので学習せず、毎度同じことを懲りずに繰り返してしまうのでした。

一番の「ももも」タイムはシャンプー時です。顔があげられないだけに背後や目の前になんかいるんじゃないかと思うと失禁しそうになります。
蛇井さんの二階にささめが潜んでいることがあるかもしれませんが、どうぞ殺虫剤などおかけにならないでやってくださいね。

如呂塚に無無山、とってもいいでしょう?(笑)
2011-10-03 20:00 | ささめ | URL  [ 編集 ]

No title 

>>pispofpさん

ややや。やややや。なぜささめの別宅住所を御存じなのです、旦那様…!
背中に「や」と書かれたはっぴをお召になり、夕刻頃ににょろにょろと上記の住所あたりにおいでになってくださったら、
軒先で「や」の旗を干しながらささめがお出迎えいたします。
お茶受けは「ややや本舗」のおまんじゅうでよろしいでしょうか。素敵ににょろにょろした形態の和菓子なのです。

おお。なにやらそう考えると私たちの住んでいる世界というのは実にバランスを崩しやすい危なっかしい土台にあるような気がいたしますね。
怖いような、わくわくするような感じがいたします♪
2011-10-03 20:04 | ささめ | URL  [ 編集 ]

プロフィール

はっかささめ

Author:はっかささめ
リンクは基本的にフリーですが、つないでやろうかいな、と思われた時には一言お声をかけてやっていただけると嬉しがります。

FC2カウンター
メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

ブログ内検索
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QRコード
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。